書類を依頼する弁理士を訪ねて、初めて調布市にやって来た。駅前が再開発されていて開けた空間に大型商業施設が分かりやすく配置されていた。
駅から徒歩3分ほどのマンションの一室に弁理士事務所はあり、受付の女性に部屋に通され弁理士の先生と対面した。
弁理士さんの第一印象は口数の少ない賢そうなお兄さんであった。私の用意した図面、動画、試作品、そしてそれらの仕様の説明文を見てもらい、自分のアイデアを伝えようと必死に説明した。
結果は『(特許取得)いけるんじゃないですかね~』と言ってもらえた。
早速書類の作成を依頼すると先生から細かい仕様の質問を受けた。1時間ほどで打ち合わせは終了し、申請書類作成までの納期に1カ月かかると言われた。
1カ月の間にやっておきたいことがあった。試作品のブラッシュアップと今回のアイデアの素となったシロイルカ達に挨拶に行こうと思っていたのだ。
シロイルカがいるのは島根県の水族館だ。東京から島根へ行き広島、岡山を巡って昔の友人に会って帰って来ようと計画してみた。岡山にいる友人は理系の天才肌、何かと相談できる人だ。
JALマイルを利用して東京から島根まで飛んだ。せっかく島根県に来たのだから一度行ってみたかった出雲大社に向かった。10月の島根は神有月だ(本当は旧暦を用いるのかもしれないが)。
10月に入っていたがまだ日差しが強く、島根空港から街なみを見てみたかったので歩いてみた。自販機すらない一本道を歩きながら用水路に咲く花や旧式の信号機を見てはなんだか懐かしい思いが込み上げてきた。出雲大社まで3時間ひたすら歩いた。
出雲大社の本殿でお参りを済ませた後、社務所に立ち寄った。かつての東京での仕事で取引先の方が転職された時にたしか出雲大社に務めると言っていたからだ。
まさか会えるとは思っていなかったが、その社務所で再会することができた。
突然の訪問にもかかわらず親切に敷地内を案内してくれて、ほんの30分ほどの時間だったが彼女の優しさにとても癒された。洋の東西に関わらず神様に仕える方々は聡明だ。
出雲大社からローカル線を乗り継いで波子(はし)駅まで移動すると島根県立しまね海洋館アクアスにたどり着いた。もっと街中にあるのかと思っていたが日本海に面した自然と、赤い瓦の人家とが調和したような所にあった。
念願のシロイルカ達に会えた。3頭の親子、ケーリャ、シーリャ、ミーリャだった。
幸せのバブルリング(登録商標)を堪能し15分ほどのショーが終わると修学旅行生や幼児達が会場から立ち去り、巨大な水槽に3頭のシロイルカと私だけになった。
父親のケーリャはショーの後も気持ちよさそうにグルグルと水槽内を泳いでいた。明らかにこちら(私)を見ている、意識している。私は心の中でお礼を言った。あなたたちのおかげで私は今再チャレンジする目標を見つける事ができたと。
ケーリャが私に向かって泳ぎながらある珍パフォーマンスを私の為だけに? してくれた。それを見て笑ってしまった。本当に知能が高いのだなと感心した。
館内のグッズ売り場で今回の私の考えているような商品が売られていないか探してみた。実はこの調査がもう一つの目的であった。インターネットや特許登録でも見当たらなかった商品のアイデアだ。ここで売られていなければまず誰も作ったことのない商品といえるだろう。結果は、同じような物は売られていなかった。
いつかこの売り場に私のアイデア商品が並ぶことを願って海洋館アクアスを後にした。2022年10月2日だった。
海洋館アクアスからローカル線とバスを乗り継いで岡山県に向かう途中、広島県に立ち寄り平和記念公園で原爆ドームと旧太田川、元案川を見つめながら一人でベンチに座りサンドウィッチを食べた。静かで、平和で、スズメたちがピョンピョン跳ねながら寄ってくる姿を見ながら遠い昔に、忘れてはならないこの地の出来事に思いを馳せた。
広島で一泊し岡山県に移動し旧友と20数年ぶりの再会をした。最後に会った日がいつなのかも分からないのに、長~い空白の時間が無かったかのように話せる事が不思議に思えた。残念ながら特許申請前のため私のアイデアについて話すことができなかったけど応援してもらえた。
広島や岡山でもホテルの部屋ではアイデアの練り直しや、視点を変えてバスタブで実験してみた。実験に必要な材料はどこでも簡単に手に入る。東急ハンズとダイソーが大きな町には必ずあるからだ。特に岡山のコーナン岡山店の規模の大きさには驚かされ、おかげで思わぬ改善点を見つける事ができた。
東京に戻ってさっそく試作機に取り入れてみた後、弁理士さんに報告した。